歯の治療は日々進化しています。「かつては諦めなければならなかった状態が、いまでは簡単に治るようになった」といったことも珍しくありません。
そんな歯科領域における進歩の一つに、素材開発があります。
虫歯部分を削った後の歯に装着する詰め物(インレー)や、被せ物(クラウン)の素材は、
●弱くては駄目
●強いだけでも駄目
という、相反する性質が求められます。
さらにいまは、見た目の良さを併せ持つ優れた素材も多数登場しているのです。
そこで今回は、イースト21デンタルが代表的な4つの素材を紹介します。
目次
金銀パラジウム合金:安くて強度も十分だが審美性に劣る
最初に紹介する詰め物・被せ物の素材は、金銀パラジウム合金です。
いわゆる「銀歯」で、医療保険が適用されます。日本で最も多く使われている素材です。
金銀パラジウム合金のメリットは、なんといっても価格の安さでしょう。保険が使えるため、患者さんの自己負担は最大3割です。また、そもそもの素材価格が安いので、「元の値段」も低く抑えられています。
銀歯には、「強い」というメリットもあります。人が歯を食いしばるとき、最大90kgほどの力がかかるのですが、それくらいで割れることはありません。また、摩耗しにくいという特性からも、詰め物・被せ物に向いているといえるでしょう。
ただ、金銀パラジウム合金は強度が高すぎるため、しなやかさが足りないという欠点があります。そのため、時間が経つと、詰め物・被せ物と天然の歯の間に隙間ができてしまうのです。隙間といってもごくわずかなのですが、細菌の侵入を許してしまうことになります。それにより、詰め物・被せ物の下で虫歯が進行するという事態を招くのです。
さらに、強すぎる性質があだとなり、他の歯を摩耗させる欠点もあります。
例えば、下の奥歯に銀歯の被せ物を付けた場合、その真上の天然の歯を削ってしまうことがあるのです。そして、銀歯特有の色は、決して美しいとはいえません。銀歯が恥ずかしくて口を開けて笑えなくなった、という方もいます。心理的な負担を感じる人もいるのです。
さらに、銀歯は金属アレルギーがある人では使うことができません。
このように、金銀パラジウム合金は欠点が多い素材でもあるのです。
コンポジットレジン:安価で白いが耐久性に劣る
コンポジットレジン、通称レジンは、いわばプラスチックです。
レジンは、歯の中に入れる前は軟らかい状態なのですが、虫歯部分を削った後の歯の上にレジンを被せて特殊な光を当てると、レジンが固まるのです。
レジンは歯に「くっつけること」が簡単なので、元の歯をあまり削らなくてもよいというメリットがあります。また、プラスチックなので、金属アレルギーを持つ患者さんにも使うことができます。
レジンは歯の色に近い白さなので、凝視されない限り、治療したと気付かれることはほぼありません。
そして、レジンも銀歯と同様、素材自体の値段が安く、医療保険を使うことができます。そんなレジンの欠点は、強度が弱いことです。強い衝撃が加わると割れることがあります。
また、衝撃が小さくても、長年使っているうちに削れてしまいます。
さらに、2年ほどで変色し始めます。それでも銀歯よりは目立ちませんが、気になる人は気になり続けてしまうでしょう。
セラミック:見た目はほとんど天然の歯
セラミックとは、陶磁器のことです。
歯の詰め物・被せ物としてのセラミックも、日常使われる瀬戸物も、同じ仲間です。ただ、歯の治療で使われているセラミックは、格段に強度を高めています。セラミックは原則、医療保険が使えないので、治療費が高くなるという欠点があるのです。
ジルコニア
セラミックにはいくつか種類があり、その中でもジルコニアは最高級品とされています。
人工ダイヤモンド並みの強度があり、実際にジルコニアは装飾品としても使われているほどです。そんなジルコニアには透明度があるため、自然の歯に近い色を出すことができます。
しかし、硬すぎて加工しにくいという欠点があります。詰め物(インレー)はときに複雑な形になり加工が難しくなるので、ジルコニアは詰め物にはあまり向いていません。
メタルセラミック
メタルセラミックは、表面をセラミックにして、内側を金属(メタル)にしている素材です。
セラミックだけだと値段が高くなってしまうのですが、金属を使うことでセラミックの使用量を減らすことができ、価格を抑えることができます。ただし、金属アレルギーの患者さんには、やはり使うことができません。
e-max
e-maxの正式名称は、ニケイ酸リチウムガラスセラミックといいます。
2009年に使われるようになったばかりの新素材です。高い耐久性に加えて、加工しやすいという特徴があります。加工しやすいと複雑な形をつくりやすくなるため、削った後の歯にフィットする詰め物・被せ物をつくることができるわけです。
オールセラミック
最も自然の歯に近い色を出せるのが、オールセラミックです。
ただ、値段の高さがネックになると言わざるを得ません。ジルコニアよりは安いのですが、メタルセラミックよりは高価です。
オールセラミックが高価なので、見えない部分を金属(メタル)にしたメタルセラミックが開発されたのです。
金:もっともすぐれた詰め物素材、60年もつことも
詰め物・被せ物の素材として古い歴史を持ち、さらに現代でも性能面では1位と言われているのが金(ゴールド)です。
寿命が長いのも特徴の一つで、「60年間使い続けている人もいる」という報告もあります。金は、硬さ、軟らかさ、熱膨張率、感触(舌触り感)どれをとっても、天然の歯の性質に近いのです。
ただ、金の詰め物・被せ物には決定的な2つの欠点があります。
それは、価格が高く、見た目が悪いことです。金なので、素材自体が非常に高額で、その上、保険も使うことができません。
また、見た目については、金銭的に余裕がある人でも選択したがらない場合があります。それでも金は、銀歯、レジン、セラミックが持つ性能面でのメリットをすべて持ち、性能面のデメリットを一切持っていません。ですから、究極の歯の素材といえるのではないでしょうか。
性能と治療費を考えながら素材を選びましょう
医療保険が適用される素材は、元々安い上に3割負担で治療を受けられます。
保険が使えない素材は、素材費が高いのに全額負担しなければなりませんが、性能は抜群に高いといえるでしょう。
歯科医から素材の性能と治療費についてしっかり説明を聞いたうえで、ベストな素材選びをしてくださいね。